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名古屋地方裁判所 平成元年(ワ)3643号 判決 1991年1月25日

原告 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 桑原太枝子

被告 名鉄名古屋タクシー株式会社

右代表者代表取締役 寺尾昇

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 平野保

主文

一  被告らは、各自、原告に対し、金七一一万四〇一三円及びこれに対する、被告名鉄名古屋タクシー株式会社は平成元年一二月一四日から、被告近藤正は同年同月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各自、原告に対し、金一三二〇万円及びこれに対する、被告名鉄名古屋タクシー株式会社は平成元年一二月一四日から、被告近藤正は同年同月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が被告らに対し、左記一1の交通事故(以下「本件事故」という。)の発生を理由に、被告名鉄名古屋タクシー株式会社(以下「被告会社」という。)に対し自賠法三条に基づき、被告近藤正(以下「被告近藤」という。)に対し民法七〇九条に基づき、損害賠償請求をする事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故

(一) 日時 昭和六二年一〇月二七日午前三時二七分ころ

(二) 場所 愛知県尾西市三条字通り三〇先道路上

(三) 加害車 被告会社保有、被告近藤運転のタクシー

(四) 被害者 加害車に同乗中の乗客である原告

(五) 態様 被告近藤が加害車の運転を誤り、左前部を道路左側の電柱に激突させた。

2  責任原因

(一) 被告会社は、加害車を自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により損害賠償責任を負う。

(二) 被告近藤は、安全運転義務を怠った過失があるから、民法七〇九条により損害賠償責任を負う。

3  傷害及び治療経過

原告は、本件事故により、顔面挫創、歯牙破折(前歯三本)、外傷性頭頸部症候群の傷害を負い、入院二七日、通院一五か月以上の治療を要し、平成元年三月三〇日症状が固定し、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一二級一三号(外貌醜状)、一四級二号(歯科補綴)、一四級一〇号(神経症状)の後遺障害が残った。

4  損害の一部

(一) 治療費 二四七万四六二〇円

(二) 付添看護費 一一万三九三四円

(三) 交通費 四一万一五三〇円

(四) 入院雑費 一〇万九七九九円

(五) 休業損害 八万五〇〇〇円

5  損害のてん補 五三二万九八八三円

原告は、被告会社から、右損害のうち、(一)治療費、(三)交通費、(四)入院雑費、(五)休業損害の全額及び(二)付添看護費のうち七万八九三四円の合計三一五万九八八三円の支払を受けた。また、原告は、自賠責保険金(後遺障害分)二一七万円を受領した。

二  争点

被告らは、前記争いのない損害以外の損害(特に逸失利益のうち、外貌醜状による逸失利益)を争っている。

(原告の主張)

原告は、商社の営業マンとして年間数百人の得意先、仕入先と会い、営業活動を行っているが、顔面の醜状が対人関係に及ぼす悪影響並びに原告自身が感ずる精神的苦痛は多大で、こうしたことが仕事の能率低下を招き、将来昇進、配置換えなどで不利な取扱いを受け、所得の減少につながることは十分ありうる。

(被告らの主張)

原告が営業マンであっても、本件の醜状は仕事に影響を与えるようなものではないから、逸失利益はありえない。

第三争点に対する判断

一  損害額(前記争いのないもの以外)

1  傷害慰謝料(請求一八〇万円) 一五〇万円

前記事故態様、原告の傷害及び治療経過を考慮すると、慰謝料は右金額が相当である。

2  症状固定後の治療費(請求六七万五一〇三円) 一一万四二七六円

《証拠省略》によれば、原告は、症状固定後も左頸背部、左上股などに神経症状が残り、苦痛をやわらげるために健康器具を使用していること、症状固定後の治療費及び交通費として、少なくとも一回五〇〇〇円、月二回、一年分を必要、相当なものと認めることができるので、新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して現価を算定すると、次の計算式のとおり一一万四二七六円となる。

5,000×2×12×0.9523=114,276

3  将来の雑費

(一) 義歯代(請求五三万五四九九円) 四一万二六六九円

《証拠省略》によれば、義歯代は一回一五万四五〇〇円(消費税込み)であること、耐用年数七年毎に義歯の取り替えが必要であり、原告の平均余命の範囲内で、第一回の義歯装着から七年後にあたる平成七年二月、その後一四年二月、二一年二月、二八年二月、三五年二月の五回取り替えるものとして、新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して症状固定時の現価を算定すると、次の計算式のとおり四一万二六六九円となる。

154,500×(0.7692+0.6060+0.5+0.4255+0.3703)=412,669

(二) 化粧品代(請求一六五万八五二五円) 五二万二七六五円

《証拠省略》によれば、原告は、顔面の瘢痕形成術を行った昭和六二年一一月から昭和六三年五月までの一年半の間は、治療行為として着色過剰予防の目的で紫外線を遮蔽するために化粧品の使用が必要であったこと、その後は化粧により若干でも瘢痕を目立たなくすることが商社の営業マンとしての職業上必要であること、一七か月間に化粧品代として一八万一〇〇〇円を要したことが認められる。もっとも、《証拠省略》をも総合して判断すると、右金額の二分の一、一〇年間の限度で相当因果関係を認めることができるので、原告主張の消費税三パーセントを加算し、新ホフマン方式により年五分の割合により中間利息を控除してその現価を算定すると、次の計算式のとおり五二万二七六五円となる。

181,000×1.03÷17×12×0.5×7.9449=522,765

4  後遺障害逸失利益又はこれに代る慰謝料(請求一三六五万八六九八円) 四二九万九三〇三円

(一) 《証拠省略》によれば、原告は、商社の営業マンとして年間数百人の得意先、仕入先と会い、営業活動を行っていること、本件事故による顔面裂挫創は、眉間から前額部にかけて長さ五センチメートルにわたる皮下組織に達する裂創、左頬部に横走する長さ八センチメートルの骨に達する裂創及び人中から上口唇にかけての擦過創であること、瘢痕も化粧品で目立たなくさせているものの隠し切れず、営業で会った初対面の人が原告の顔の傷のことを尋ねたり、顔を見つめたりすることが多くあり、原告自身の精神的苦痛が大きいのみならず、人と会うのに気が重くなり、消極的になる等仕事の能力低下をもたらし、ひいては将来の昇給、昇進にも影響を及ぼしかねない状態にあることが認められる。

もっとも、遠い将来の所得の減少の蓋然性については、これを認めるに足りる的確な証拠はない。

(二) そこで、右の事情と、前記原告の本件事故によるその他の後遺障害(歯科補綴及び神経症状)を総合すると、原告の後遺障害逸失利益(仮にその一部について所得の減少を伴わないとしてもこれに代る慰謝料として認める。)の算定は、《証拠省略》により認められる年収五四一万一四〇〇円を基礎とし、一〇年間にわたり一〇パーセントの限度でこれを認めるのが相当である。よって、新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除してその現価を算定すると、次の計算式のとおり、四二九万九三〇三円となる。

5,411,400×0.1×7.9449=4,299,303

5  後遺障害慰謝料(請求二四〇万円) 一八〇万円

前記原告の後遺障害の内容、程度を考慮すると、慰謝料は右金額が相当である。

6  弁護士費用(請求一二〇万円) 六〇万円

原告が被告らに対し、本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求め得る弁護士費用は、本件事故時の現価に引き直して六〇万円と認めるのが相当である。

7  合計

以上の損害額(争いのないものも含む。)を合計すると、一二四四万三八九六円となるところ、前記争いのない損害のてん補額五三二万九八八三円を控除すると、残額は七一一万四〇一三円となる。

二  結論

以上の次第で、原告の請求は、七一一万四〇一三円及びこれに対する本件事故後である、被告会社は平成元年一二月一四日から、被告近藤は同年同月一五日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 芝田俊文)

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